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展覧会の感想、適応障害で休職中の日々の日誌など。気持ちの揺らぎを見つめて自分のハンドリング方法を模索しています。

萩原規子「勾玉三部作」より『白鳥異伝』:何かが変わる時は何かを手放す時

#名刺代わりの小説10選、いよいよラストです。
今回は萩原規子「勾玉三部作」より『白鳥異伝』です。

【いままでの振り返り】
西の魔女が死んだ:梨木香歩
キッチン:よしもとばなな
蜜蜂と遠雷:恩田陸
ジヴェルニーの食卓:原田マハ
グアテマラの弟:片桐はいり
博士の愛した数式:小川洋子
ロマンス小説の七日間:三浦しをん
僕と先輩のマジカル・ライフ:はやみねかおる
鹿男あをによし:万城目学
勾玉三部作:萩原規子

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白鳥異伝

白鳥異伝

勾玉三部作」は『空色勾玉』『白鳥異伝』『薄紅天女』の三部作なのですが、今回は1番好きな『白鳥異伝』について書きたいと思います。
(Twitterでうっかり空色勾玉と書いてしまったんですけど、三部作括りってことで勘弁してください…)

私のファンタジー遍歴

今回の10選、実は思い入れがありすぎて語りすぎてしまうかもしれないという理由で「ハリポタ」を外しました。
ただ、そこから所謂ファンタジーというジャンルそのものが大好きになったんですよね。
指輪物語」シリーズも頑張りましたし、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「大魔法使いクレストマンシー」、「ダレン・シャン」も制覇しました。
デルトラ・クエスト」、「シェーラひめの冒険」辺りも好きでしたね。懐かしいです。
ただやっぱり、10代のうちに触れたファンタジーは「ハリポタ」ブームを受けてなのか、割と背景が西洋寄りのものが多かったように思います。

そんなファンタジー遍歴の中で出会った勾玉三部作はがっつり日本の神話や言い伝えを題材としていたので、自分の国の話なのにカルチャーショックを受けるというちょっと捻れた衝撃を受けたのを未だに覚えています。
(『白鳥異伝』のベースは『風土記』のヤマトタケル伝説であると筆者のあとがきにあります)

ちなみに、「守り人」シリーズを読み始めたのは20過ぎてからでした。
これも大好きなので入れるかどうか最後まで悩みましたね。
仮に10選に入れていたら、少しアウトローですが「夢の守り人」を語ったと思いますけど、これもやっぱり長いので、また別の機会に。

『白鳥異伝』のキーワード①運命

この物語のキーワードは「運命」、そしてテーマは「運命に対する態度とその結果」であると私は思っています。
女である運命、次代の巫女である運命、日継の皇子である運命etc.と、登場人物が何らかしらの己に課せられた運命を背負っている時代の物語です。

橘の巫女の家系に生まれた主人公・遠子は「自らの運命をその手で切り開き、愛する人をその手で殺さなければならない」という運命を背負うこととなります。
遠子は一度は辛さのあまりこれを遂行することができず、行方をくらませるのですが、最終的に運命は彼女を「諦めて、愛する人を死へ送り出す」というさらに残酷な形でこの運命を遂行させるのです。

そこに至るまでの物語上では、遠子はじゃじゃ馬姫と呼ばれるほど奔放に、男女の型にすら囚われることなく自らの運命を自分で切り開き、決断していたかのように書かれています。
そんな遠子でも、この運命には逆らえなかったのでした。

『白鳥異伝』のキーワード②手放す

先に述べた遠子の愛する人・小倶那は拾われ子として遠子と共に育った人物ですが、血の濃い大王の世継であるという出生の秘密と共に大きな運命の渦・悲劇多き戦いへの道へと巻き込まれていきます。
小倶那改め小碓命の力の源となったのは、作中で「剣の力」と呼ばれる破壊の力です。

小碓命とこの「剣の力」にひどく執着したのが大王の妹であり小碓命の母である百襲姫でした。
小碓命に力を振るわせるために自ら命を断ち、生霊となって夜毎に小碓命の元を訪ねるほど、彼女は「力」と小碓命に執着していたのです。

共にこの世で生きたいと願う遠子。
力と名声を息子に与えたいという百襲姫。
どちらも由来は愛情であるとある人物に諭されたことから、遠子は「私たちの間に違いはあるのだろうか」とひどく苦しみます。

遠子の出した結論は、①で挙げた「諦めて、愛する人を死へ送り出す」でした。
遠子は小碓命の意思と決断を「わたしにはどうすることもできない」という思いから受け入れ、信じて運命に抗うことを手放したのでした。
先の見えない中でただひたすらに相手を尊重し信じることって、本当に難しいことです。

百襲姫は「手放す」ことができなかったことから、結果的にその決断が百襲姫と彼女の差異となり、小碓命と遠子を救うこととなります。
ですが、この「無条件に信じて手放す」という行為は、これまで「運命を自らの手で切り開いてきた」と思っていた遠子にとっては、尚のこと辛い決断であっただろうと思います。

何かが変わる時は、何かを手放す時

「手放す」「諦める」「受け入れる」という言葉と「自分の運命は自分で切り開く」という言葉は、相反するように見えますが、実は非常に近しいところにある言葉なのだとこの頃思います。
自分が人生の岐路に立ってみて初めて、何か新しいステージに進む時は無意識に何か違う道を手放し、諦めているのだと気付きました。

決断が辛いのは、だんだんその選択が自分ひとりだけのものではなくなってくるから、何かを選ぶことは苦しいことになっていくのでしょうね…物事が大きければ大きいほど、その選択が合っていたか、手放したものの方が良かったのではないかとくよくよしてしまいます。

でもこの物語のように、現実社会でも、私達は何かを手放して選んでいかないと停滞してしまうのではないかと思います。
いつでも既に賽は投げられていているのです。

私の現在の状況である、色々と決断しなければいけないタイミングで読み返したから余計にそう思うのかもしれませんね。

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実は、折に触れて書いている大切な言葉、町田樹氏の「自分の運命は自分で切り開く」を念頭に置きながらこの本の感想を書いていた最中に、町田樹氏のプロフィギュアスケーター引退のお知らせが出ましてね…なんかもう、言葉になりません。

ですが、彼もきっとプロフィギュアスケーターを手放した先の道を選んだのだと思います。
この決断が、現役を引退した時のように誇らかな決断であってほしいと願っています。

これからもずっと、さらに深みを増した「自分の運命は自分で切り開く」という言葉を大切に、私も先へ進みたいと思います。

(ていうか白鳥ってスワンレイクじゃないまっちー…ぴったりすぎて怖いよ…)

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#名刺代わりの小説10選、以上で全て書き終わりました。
いかがでしょう、名刺代わりとなりましたでしょうか。
思いつきで全ての本に文章を書き始めましたが、現在の心の状態から家族構成、音楽のこと、ファンタジー遍歴、町田樹氏のことと、割と幅広く色々な話が書けたと思います。
とりあえず、私はとても楽しかったです。
先延ばしにしている本の話もあるので、また折に触れて書けたらいいなと思います。