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展覧会の感想、適応障害で休職中の日々の日誌など。気持ちの揺らぎを見つめて自分のハンドリング方法を模索しています。

万城目学『鹿男あをによし』:超天然なのか大明神

#名刺代わりの小説10選、だいぶ先が見えてきましたね。
ここから(と言っても2作ですが)ファンタジー部門です。
ファンタジーがとても好きなんです!
思春期を思い返してみると、なんやかんやファンタジーばかり読んでいた気がします。
なので、10選の中にどれだけファンタジーを入れるか迷ったのですが、名刺代わりとなるとやはり、勾玉三部作と今回の万城目学鹿男あをによし』かなあと思い、この2作を選びました。
西洋ファンタジーへの思い入れについてはまた勾玉三部作のエントリの中で書いていきたいと思います。

【いままでの振り返り】
西の魔女が死んだ:梨木香歩
キッチン:よしもとばなな
蜜蜂と遠雷:恩田陸
ジヴェルニーの食卓:原田マハ
グアテマラの弟:片桐はいり
博士の愛した数式:小川洋子
ロマンス小説の七日間:三浦しをん
僕と先輩のマジカル・ライフ:はやみねかおる
鹿男あをによし:万城目学
勾玉三部作:萩原規子

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鹿男あをによし (幻冬舎文庫)

鹿男あをによし (幻冬舎文庫)

あらすじが説明できない

奈良・京都・大阪を舞台にした現代版『坊ちゃん』であり、歴史ファンタジーでもある、とでも言えばいいのでしょうか。
我ながらひどい見出しなのですが、この作品は未読の方には何を説明してもネタバレになりそうなんですよね…難しいです。

差し障りのなさそうなところで言えば、剣道の描写がかっこいいですね。
武士道シックスティーン』シリーズが好きな方、あとは薙刀で漫画ですけど『あさひなぐ』が好きな方で『鹿男あをによし』を未読の方がいたらお勧めしたいな、なんて思います。
超・余談ですが『あさひなぐ』は将子が好きすぎてインハイ予選前の部内戦のエピソードで必ず号泣します…好きすぎてこれもいつかエントリとして書きたいなと思っています。

奈良で古墳巡りがしたくなる

「神経衰弱」であるとして、大学院の研究室を追われた「おれ」は、女子校の臨時教員として奈良にやってきます。
そんな「おれ」を待ち受けていた奈良は、とても歴史的な謎に満ちた美しい地でした。

春日大社平城宮跡、石舞台、高松塚古墳キトラ古墳…奈良の様々な場所がこの作品には登場します。案内役となるのは「おれ」の隣のクラスの担任で歴史の教師・「かりんとう」こと藤原君です。
藤原君はドラマではなぜか女性にされてましたけどあれはあれで面白かったですね。
そしてドラマ版は音楽も最高に良かったです。

「鹿男あをによし」エンディング・テーマ

「鹿男あをによし」エンディング・テーマ

しかしiTunesはなんでも出てきますね。
Apple Musicでは本家は出てこなかったのですが、吹奏楽版が聴けるみたいです。

で、この藤原君が「おれ」を奈良のあちこちに連れて行くのですが、中でも美しいのが黒塚古墳から眺める夕焼けの場面です。

丘を包む空一面が、紫色に染まっていた。
正面を古墳に塞がれていたせいで気づかなかったのだが、低い山々に囲まれた大和盆地を押し包むように、紫の夕焼けが広がっていた。
頭上では薄らと夜が姿を現し始め、淡い茜を帯びた雲は梳いたようにどこまでもはかない。紫のヴェールに包まれた空を、おれと藤原君は声もなく見上げた。堀の水面をのぞくと、そのまま空を見下ろすかのように澄んだ紫である。田んぼの稲穂が、西の山々にかかった夕陽を浴びて黄金色の波を描く。枝葉を大きく広げた松のシルエットは、絵から飛び出したかのように様になっている。

大学時代にも奈良は授業で行ったのですが、その時は仏像や建築中心で回ったので、この作品に出てくるような遺跡や古墳巡りはしなかったんですよね。
こんな夕焼け、人生で一度は眺めてみたいものです。
歴史のせいでしょうか、マジックアワーと言い表すのともまた違うロマンを感じますね。

ちなみに、平城宮跡は中学の修学旅行で側を通ったので「リアル鹿男あをによしだ…」とバスの中でひっそり興奮していました。

神様や使いがなんだか人間臭い

鹿せんべいよりもポッキーに目がない鹿、動物園で悠々と暮らし出かける時はタクシーでやってくるという狐、干支の謂れを未だに根に持つ鼠など、この作品で「使い」と呼ばれる者達がやたらと人間臭いのがこの作品の面白いところです。
基本的に人間達が人智の及ばない大騒動に巻き込まれる、という構図の話なのですが、使いからしてこんな感じで、ゆるいというか人間臭いんですよね。
そして何より要となる春日大社のご祭神・鹿島大明神を最終的に「超天然なのか大明神」とまとめる、その筆致の軽やかさに笑ってしまいます。
(大騒動は笑い事じゃないんですけども)

最後に紹介する「勾玉三部作」も日本の神話や言い伝えをベースにした作品なのですが、合わせて読むとますます日本という国の神々の多彩さに驚かされます。
勾玉三部作」と比べると、この作品における神様や使いはやっぱりちょっと面白系でおおらかだなあと思います。現代だからですかね。

文庫版は解説までセットで

文庫版あとがきを書いているのは、ドラマで「リチャード」役を演じた故・児玉清氏です。
ぜひこちらも合わせて読んでもらえたらと思います。
こんな風に、亡き人と時を超えて心を交わすことができるのが本の素晴らしいところですね。