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展覧会の感想、適応障害で休職中の日々の日誌など。気持ちの揺らぎを見つめて自分のハンドリング方法を模索しています。

増田セバスチャン『世界にひとつだけの「カワイイ」の見つけ方』

先日、ターナー展に行った帰りに買ったのがこちらの本、増田セバスチャン『世界にひとつだけの「カワイイ」の見つけ方』です。

世界にひとつだけの「カワイイ」の見つけ方

世界にひとつだけの「カワイイ」の見つけ方

損保ジャパン日本興亜美術館の近くである新宿のモード学園コクーンタワーの下にはブックファーストがあったので立ち寄ってみたのですが、やはり美術・デザインに関する本の品揃えはさすがでしたね!
同様に美術・デザイン関係の本が充実している東京駅の丸善と比べると、場所柄なのか実践に使えそうなデザイン集や、画集などが多かったのが印象的でした。

そんな中で平積みされていたのが増田セバスチャン『世界にひとつだけの「カワイイ」の見つけ方』でした。
ちょうど本が発行されたのが6/15、ターナー展に行った日(6/17)の2日前というフレッシュなタイミングで手にすることになりました。

増田セバスチャンと私

増田セバスチャンについては、このブログでも何度かエントリを書いています。私が思う、増田セバスチャンの好きなところは「カワイイ」イズムに貫かれたマテリアルを絵具のように使いこなし、それを積み重ねることで作品を作り上げるというどこか狂気的とも言える精度の高さなんですよね。


増田セバスチャン《Point-Rhythm World - モネの小宇宙 - 》(部分)、2017年

これは《Point-Rhythm World - モネの小宇宙 - 》の、ほんの一部分の写真です。
全体像はかなり広い空間がこんな感じの「カワイイ」マテリアルで満たされ、再構成されたモネの「睡蓮」となっています。
制作風景や作品全体像についてはこの動画が分かりやすかったです。

この時は銀座のポーラ美術館アネックスが会場だったのですが、今夏に箱根のポーラ美術館で再び展示されることが決まっているようです。
これはちょっと行きたいですね…下記の特設サイトからポーラ美術館での展示の詳細が確認できます。
増田セバスチャン×クロード・モネ Point-Rhythm World 2018 -モネの小宇宙-

増田セバスチャン《最後のウェポン》、2017年

これはドラえもん展2017の出展作品です。
ドラえもんを、現在のところ人類が再現することができていない機械という側面から捉え、オーパーツや古代兵器(ウェポン)になぞらえています。

こういうちょっと狂気的なところや毒っ気がありつつ、個別の作品テーマがあり、かつ全体的の印象が「カワイイ」に貫かれ続けているところがすごいと、作品を観る度に思っていました。
自分ならではの審美眼とバランス感覚があるんだろうなとずっと感じていたんですよね。

「カワイイ」って、何?

この本は絵本風のIntroduction、「カワイイ」について解説するPROLOGUEと、本章にあたるCHAPTER1-4、EPILOGUE、あとがきという構成になっています。

どの部分も興味深いのですが、やはり根幹を紹介するPROLOGUEが増田セバスチャンのイズムが凝縮されていて面白かったので、今回はそこに絞って紹介します。

PROLOGUEの中で、増田セバスチャン自身は「カワイイ」を次のように定義しています。

「自分だけの“小宇宙”ーそれは、誰も邪魔することができない、自分だけが愛でることのできる“小さな世界”」(中略)だから、言い換えればカワイイとは極めて個人的(インディビジュアル)で自立した美意識です。

「だれにも譲れない自分だけの世界、代わりのきかない、とても好きな何か」

また、原宿という街そのものの光と闇、増田セバスチャン自身が原宿で行き場のない想いを抱えていたというバックボーンから、「カワイイ」には“甘いバニラアイスに黒コショウをまぶして味を引き締めるような”明るさと暗さのバランスがあって初めて成立するものであるとも書いています。

そして大人社会へのカウンターとしての「カワイイ」という側面も語られていきます。
様々なルールの下にある大人社会の中でひっそりと自分の「カワイイ」ーつまり、小宇宙を作り出す手段のひとつに、増田セバスチャンは色の力を取り入れることを勧めています。

いわゆる「カラフル」でなくても、自分が本当に「好きだ」と思える色や好みの小物などであれば、それを携えているだけで心のありようが少し変わってきます。
自分という人間の中に、ふだんとはちょっと違う自分が顔をのぞかせているのがわかる。それこそが自分だけに許された“小宇宙”の発見なのです。

お気に入りのリップを塗るとか、イヤリングをつけるとか…なんとなく分かる感じがしますね。

この後の章でも、自分の「好き」を大切にして、目に見える形で表現することは自分自身の心を救うことに繋がるということは繰り返し書かれていきます。

そしてその結果がどうなるのか、ということについてはPROLOGUEの最後に、とても綺麗な文章で綴られています。

そして、暗く沈んだ色のない世界に「自分だけの色」を灯す。
すると、1本のろうそくの光が壁に反射して空間中を満たしていくように、淡くとも確かな変化が、目の前の相手や周りの人たちに伝播していくはずです。

好きなことを表現しよう

この本を読み終えて、「好きなものがある」ということは、実は当たり前ではない、とても幸せなことなのだと気づきました。
美術が好き、読書が好き、コーヒーが好き、書くことが好き…仕事がなくても、まだ私には色々な「好き」が残っていて、表現することができるんですよね。
ないものではなくあるものを大切にしよう、と思いました。

「好き」を大切にし続けることは自分自身を大切にすることに繋がるという部分にも共感しました。
実際、仕事に追われていた時は半ば無理やり美術館に行く時間を作るようにはしていたものの、読書を楽しんだりコーヒーを味わって飲んだりする余裕は全くありませんでした。

「好き」を楽しむ余裕を作ることは何も悪いことじゃないんですよね。
追い詰められていた去年〜今年の冬にかけての自分に読ませてあげたかったです…

表紙も増田セバスチャンらしい「カラフル」で目に留まりやすいかと思います。
本屋さんで見かけたらぜひ読んでみてもらえたら嬉しい1冊です。