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展覧会の感想、適応障害で休職中の日々の日誌など。気持ちの揺らぎを見つめて自分のハンドリング方法を模索しています。

はやみねかおる『僕と先輩のマジカル・ライフ』:人間っていいなと思えるミステリ

#名刺代わりの小説10選、今回は『僕と先輩のマジカル・ライフ』です。

【いままでの振り返り】
西の魔女が死んだ:梨木香歩
キッチン:よしもとばなな
蜜蜂と遠雷:恩田陸
ジヴェルニーの食卓:原田マハ
グアテマラの弟:片桐はいり
博士の愛した数式:小川洋子
ロマンス小説の七日間:三浦しをん
僕と先輩のマジカル・ライフ:はやみねかおる
鹿男あをによし:万城目学
勾玉三部作:萩原規子

✳︎✳︎✳︎

はやみねかおる作品、とっても大好きなんです。
青い鳥文庫育ちなので、夢水清志郎シリーズも怪盗クイーンシリーズもひと通り読んでいます。
が、気づいたら読めてない続編が結構出てました。リアルタイムで追いかけていたのは夢水清志郎シリーズの第1部完結くらいまでですかね。
「縦だか横だかわからないステーキ」は是非とも食べてみたい。

怪盗クイーンシリーズは『怪盗クイーンの優雅な休暇』が好きで、持ち歩いてぼろぼろになるまで読んでいました。

そしてこの記事を書くための下調べで都会のトム&ソーヤシリーズがいまも続いていると知って小躍りしました。
図書館で大人借りしたいなあ…久しぶりに赤い夢を見たいなあ…

で、はやみねかおる作品はどれも好きなんですけど、なんだかんだ手元でいつも読み返したいのはこの『僕と先輩のマジカル・ライフ』です。
青い鳥文庫をなんとなく卒業した後、高校生の時にたまたま学校の図書館でこの作品のソフトカバー版を見つけてとても嬉しかったのを覚えています。
ひとりで10回くらい借りたような記憶がありますね。

日常と人間の心の謎を解き明かす

ミステリ作品の好きなところを書くのって難しいですね。
何を書いてもネタバレになりそうですが、慎重に頑張って書きたいと思います。

はやみねかおる作品の原則通り、この作品もド派手な殺人事件ではなく大学近辺の謎を解き明かしていきます。
が、軽妙な語り口でゾッとするような人間の心を炙り出していくので時々その落差に驚かされます。
でもそれが癖になるんですよね。
『僕と先輩のマジカル・ライフ』で言うと第二話・地縛霊がそういう系統の話になるかと思います。

「人間っていいな」と思えるミステリ

読後に自分の周りも愉快な仲間と不思議な出来事で溢れているとちょっと楽しく思えるところがこの作品の好きなところです。

基本的にはやみねかおる作品に出てくる登場人物に普通の人はいません(キッパリ)

が、『僕と先輩のマジカル・ライフ』は本当の本当に常識人キャラがいないんですよね。

常識人キャラを務めるはずの主人公・語り手の井上快人は、小学校で配られた「良い子の夏休みの約束」を大学生になっても律儀に守り、写経で暑さを凌ごうとするような人物。
そんな快人にツッコミを入れる、言動的には読者に近いキャラの春奈は本物の霊能力者。
探偵役の長宗我部先輩はもう人間かどうかも怪しいレベル。

でもそれが心地いいんですよね。
身近にいそうだけどよく考えたら変人だな?レベルから、いやいやそれは人外でしょ!レベルまで、様々なキャラクターが出てくるんですけど、それぞれが違和感なく作品世界の中で暮らしているので、すんなり読み進むことができます。

人間っていいな、と思えるミステリってなかなかないと思うんですよね。
先に述べた人間の心のゾッとする部分を炙り出しながらも「人間っていいな」という読後に浸れるのは、この作品に限らない、はやみねかおる作品の毎回の不思議です。

真似したくなる言葉遣い

あとこれは私だけかもしれないんですけど、この作品はちょっと真似してみたくなる言葉遣いや要素に溢れているんですよね。
いやらしくない程度の面白いルビ遣いとか、軽妙な言い回しが好きです。

「先輩、日本広告審査機構って知ってます?」
「飛行機会社のことかい?」
それはJALだろ!ってツッコミを心の中で入れる。
ぼくは、ジャロって何ジャロ?って顔をしている先輩に、真実を告げるのは残酷なような気がしたので、黙ってることにした。

JAROって単語でこれだけニヤニヤできるやりとりもあんまりないような気がしますね。
ジャロって何ジャロ?って顔してるよ、って会話で使ってみたいんですけどなかなか機会に恵まれないまま大人になってしまいました…

あと、実はこの作品に憧れて大学でちょこっとだけ民俗学も勉強しました。本当にちょこっとだけですけどね。

なにとぞシリーズ化してください…!

この一言に尽きます。
読み返すたびに長宗我部先輩の存在の謎が気になって仕方がないのですが、今のところこの作品は単発状態です…他にもシリーズを色々抱えていらっしゃるので難しいかと思いますが、続編が出るのを気長に待ちたいと思います。

余談

私の手元にあるのは文庫版なんですけど、文庫版の解説を書いているのが恩田陸というのもいいんですよね。
この解説も含めて大好きな作品です。
なのでどうか『僕と先輩のマジカル・ライフ2』を…不思議で愉快なキャンパスライフの続きが読みたいんです…