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展覧会の感想、適応障害で休職中の日々の日誌など。気持ちの揺らぎを見つめて自分のハンドリング方法を模索しています。

片桐はいり『グアテマラの弟』:私にも弟がおりまして

#名刺代わりの小説10選 シリーズです。

今回は片桐はいりグアテマラの弟』です。
厳密にはエッセイなんですけど、どうにもこの本が好きなので入れずにはいられませんでした。

【いままでの振り返り】
西の魔女が死んだ:梨木香歩
キッチン:よしもとばなな
蜜蜂と遠雷:恩田陸
ジヴェルニーの食卓:原田マハ
グアテマラの弟:片桐はいり
博士の愛した数式:小川洋子
ロマンス小説の七日間:三浦しをん
僕と先輩のマジカル・ライフ:はやみねかおる
鹿男あをによし:万城目学
空色勾玉:萩原規子

✳︎✳︎✳︎

片桐はいり作品は『もぎりよ今夜も有難う』『わたしのマトカ』も読んでいるんですけど、断然好きなのがこの『グアテマラの弟』です。

かつて「兄」として振舞っていた著者と、異国・グアテマラに暮らす年子の弟との確執と和解、ついにグアテマラの地を踏まなかった父との永遠の別れ、家事に励むも海外に怖気付いてしまう母、そして日本とは異なる価値観を持つグアテマラの人々が描かれた作品です。

グアテマラの弟 (幻冬舎文庫)

グアテマラの弟 (幻冬舎文庫)

他のシリーズも表紙がとっても可愛い。

意識し合う長女と長男の感覚

この本は解説を「グアテマラの弟」こと片桐真さんが書いているところが面白いんですよね。
真さんは解説を次の言葉で始めています。

子供の頃から字を褒められたことがない。小学校の書き方の時間は苦痛だった。下に薄い字で見本が書いてあり、それをなぞるのは問題ないが、それがなくなって自分で書くと、見本とは似ても似つかない字が出来上がるので、何回も消しては書き直したものだ。

ここからはいりさんの何気ないある言葉により、真さんは「なにもない白い紙に自分で自分の字を書けるようになっていったように思う」と自らのグアテマラ行きをまとめています。

一方ではいりさんの方も、弟に「お兄ちゃんだったらよかったのに」と言われたことをきっかけに幼心に兄になる決心をしたものの、ある思春期の行き違いから弟とはつきあいがなくなっていったように思う、と「前世と宇宙戦争」という章で書いています。

グアテマラの弟』は全体的に、かつて「兄」だった姉が、現地グアテマラでは弟に頼り切る場面が多い、というところになんとなくおかしみや、大人の関係性が出ているように思います。

ああ、長女と長男だなあ…姉弟だなあ…としみじみ思います。

私にも弟がいるので家族構成が著者と同じなんですよね。
年子ではなく6つ下で、タイミング的に学校で顔を合わせるようなことは全くなかったため、私としては割と遠い存在だなーという感じなんですけど、どうやら弟の方は行く先々に何となく私の影があって複雑だったみたいですね。

そして私の方も双方の思春期の問題で「お母さんじゃないのにお母さんみたいなことを言うな」と言われたことがあるのを未だに微妙に引きずっています笑
決して不仲ではないので、私も最近は姉ではなく大人どうしとしての付き合いを意識して話をするようにしてますね。
弟の方がスポーツ、音楽、マンガetc.のカルチャーに詳しいので、最近は実家に帰るたびにいつも最近のカルチャー事情を教えてもらう立場です。

先日は日本語ラップ入門講座を開いてもらいましたけど「何かの糧にしようとしてカルチャーに触れるのはよくない」「ネタバレや批評を先に読んじゃうのは論外」とお叱りを受けたので反省しました…血が繋がっているから、痛いところを容赦なくついてきます。反省…

「おやじと珈琲」に見る父の眼差し

この話とひとつ前の「甘い水と苦い水」が、切ないんですけど好きな話です。
今回は父の日前なので「おやじと珈琲」を取り上げようと思います。
この話は、コーヒーの生産地として有名なグアテマラのコーヒー事情と、ついにグアテマラに行くことなく亡くなった姉弟の父の話です。
遠い国に定住した息子を気遣ってなのか、「生来の食いしん坊」だからなのか、息子に頼んでグアテマラ全産地の豆を運ばせ、そこから好みの豆としてウエウエテナンゴ産の豆を選び、自家焙煎まで行うようになった父の姿が書かれています。

やっぱり、子供は大人になっても、どこにいても気にかかるものなんですかね…この時期に読むと、私も父の日の贈り物を考えなくちゃ、という気持ちになります。

実家を出てから丸3年経ちますけど、体を壊した今の方が返って実家、特に父と連絡を取っているような気がしますね。
色々ぶつかることも多かったですけど、離れてみてわかるありがたみもあるなあと思います。

私はこの3年で立て続けに祖父母を亡くしているので、この作品を読むと父や母、弟とは付かず離れず、でも程よく仲良くやれたらいいなと切に思います。

誕生日には毎年花と手紙を贈ってくれる私の父です。
珍しく今年は黄色が多めでした。