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展覧会の感想、適応障害で休職中の日々の日誌など。気持ちの揺らぎを見つめて自分のハンドリング方法を模索しています。

よしもとばなな『キッチン』:パイナップルが欲しいの

今回は、前回に引き続き読書の話。
梨木香歩西の魔女が死んだ』の記事の余談の種明かしです。

よしもとばなな『キッチン』より「満月 キッチン2」の、主人公みかげとえり子さん(みかげの拾い主・雄一の「母親」)がある真冬の日の思い出話をする場面で、キーとして出てくる植物がパイナップルです。

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

元々こちらも、中学校の国語のテストの課題図書で『TSUGUMI』を読んだのが、よしもとばなな作品に触れたきっかけだったと思います。
あまり数は読んでいないのですが『海のふた』も好きですね。「ひと夏の話」に偏っているのはやはり『TSUGUMI』の影響でしょうか。

とは言え『キッチン』本編は春の薄曇りの日から始まりますし、今回取り上げる「満月 キッチン2」は秋の終わりから思い出話で時系列が行き来します。

今回取り上げる場面は「少し肌寒い、夏の夜明けに始まった、えり子さんのいちばん悲しい真冬の思い出話」です。

えり子さんとパイナップル

夜でパイナップルのとげとげした葉っぱをほほにつけて、鉢植えを抱きしめて震えてーこの世に、自分とパイナップルしか今夜分かり合えるものはいないって、心から言葉にしてそう思った。目を閉じて、風にさらされて寒さに寄り添う、この二つの生命だけが同じに淋しいって。

この場面というか、思い出話の中には他の植物も一応出てきます。

なるべくぼかして書くと、ある人のある要求に対して、ベンジャミン、セントポーリアをまだ知らなくて、サボテンはなんだし、と思ったえり子さんが選んだ植物がパイナップルです。
ここで名前が挙がった植物と比べて、パイナップルはなかなかファニーな選択なのですが、とてもとても悲しい場面なんですよね…予期される深い悲しみと、パイナップルというコントラストが鮮やかです。

自分の悲しみを引き受ける方法は人それぞれ

『キッチン』という本も妙に好きで、弱った時には必ず引っ張り出して繰り返し読んでいます。
主人公・みかげは祖母の死を、愛する場所であるキッチンで料理を作り続けることで引き受けていきます。
そういう姿がなんとなく自分と重なるのかもしれませんね…もちろん、みかげほどストイックではないですが。
私はここ何年か行き詰まりを感じた時は必ず相棒のホーロー鍋で煮込み料理を作ります。あとちょっといい肉を買ってきて焼いてひとりで食べたりとか…自分ひとりのために料理を作って食べるまでをやり切ることで、精神安定を図るような部分は自分にもありますね。

えり子さんは悲しみを、パイナップルと抱き合って一緒に冬の夜を過ごすことで、引き受ける覚悟を決めたのだと思います。

決してこの夜に引き受け切ったのではなく、骨の髄まで深い悲しみを引き受ける覚悟を決めたのでしょう。
パイナップルと冬の夜の話自体も、その後のえり子さんが取った方法も、他人から見たらかなり荒唐無稽なのですが、えり子さんはかなり鮮烈な方法で悲しみを引き受けていったんですよね。
だからこそ「生命力の揺れみたいな鮮やかな光が、全体からかもしだされる」存在としてみかげや雄一を温めることができたのでしょう。

無意識にパイナップルのペンに惹かれる

これです。

ぱっと見はキラキラ系のボールペンと見せかけて、よく見ると遊び心があるところが気に入りました。
色はピンクゴールドもあったのですが、好みは断然こちらのシルバーです。

以前は仕事と立場上、ある程度人に貸しても恥ずかしくないペンを手元に持っていたかったので、カランダッシュのエントリーモデルなんかを張り切って使っていました。
(見た目も書き味も大好きだったんですけど、結局そのペンは店舗の荒っぽい使い方に耐えられずインク漏れで壊しちゃったんですけどね…また欲しいなとは思っています)

いままではパイナップルモティーフに惹かれることはほとんどなかったんですけど、雑貨屋さんでこのペンを見た時にどうしても欲しくなっちゃったんですよね。
生命力を放つえり子さんにあやかりたかったんでしょうか。
例のサボテンとほぼ同じ時期に買ったので、やっぱりどこか弱ってるんですかね…

とりあえずいまは焦らず、人の目ではなく自分のために自分の思いを好きなツールで綴りたいと思います。