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展覧会の感想、適応障害で休職中の日々の日誌など。気持ちの揺らぎを見つめて自分のハンドリング方法を模索しています。

プーシキン美術館展(+ビュールレ・コレクション展の余談)

先週は夫と一緒にプーシキン美術館展に行きました。
混雑を避けて平日にふらっとひとりで行くのにすっかり慣れてしまいましたが、たまにはそっと感想を言い合いながら作品を観て回るのも楽しいですね。

「フランス風景画」という難題に応える展覧会

今回は展覧会のサブタイトル「旅するフランス風景画」の通り、ある時期に神話や古典文学から自立した風景画がフランスで新古典主義バルビゾン派印象派を経てどのように変化していったか、いう目線で作品が並べられています。

正直、風景画が神話や古典文学から自立する過程を知ろうと思うと相当面倒なんですよね。
このテーマを考えるとなるとフランスだけでなくオランダ・イタリア辺りにも触れなければいけないというのが理由のひとつです。

で、この展覧会はこの前段階を、第1章「近代風景画の源流」の最初の大解説で「フランスでは、神話から脱したもののまだ理性の光に照らされた風景画が18世紀後半頃から描かれ始める」という感じでざくっとまとめた上で、饗宴画というジャンルから紹介が始まったので、かなり外観を掴みやすいなと思いました。

イタリアやオランダの影響や歴史背景などの細かいことは、適宜それぞれの作品の解説でフォローが入りますし、当然画面だけでも違いはわかるようになってます。

【ざっくり】フランス風景画の自立過程

実家に戻ったついでに久々に大学の教科書を読んでみましたが、やっぱりフランス以外の流れとフランスの中の流れがあってややこしいので「フランス風景画」で括るのは大正解だと思いました。
以下は私感も含んだざっくりまとめと感想。

★前提
・18-19世紀ヨーロッパは基本的にフランス革命産業革命を中心に混乱している
・王侯貴族から徐々に市民階級が台頭してくる

★フランス風景画の自立過程

・17世紀の「理想的風景画」クロード・ロラン


クロード・ロラン《エウロペの掠奪》1655年、プーシキン美術館

これが第1章の冒頭に展示されています。
スタート地点がわかりやすくていいですね。
ギリシア神話から題材が取られています。

・18世紀ロココ主義(饗宴画など)


ジャン=バティスト・フランソワ・パテル《五月祭》1730年代前半、プーシキン美術館

そもそもの饗宴画は古典文学を元にある程度整えられた、ある種の桃源郷的な雰囲気を持つものでしたが、パテルのこの作品は古典文学の影響から脱しつつある、という解説がついていたかと思います。
五月祭はヨーロッパの春を祝うお祭なので、だいぶ世俗に近づいてきましたね。

・17世紀以降画家が旅をするようになる
→饗宴画と同時代から割と写実的な絵も描かれるようになる

ユベール・ロベールに関しては今回は《水に囲まれた神殿》が来ていますが、なんだか画像が微妙なので現地で観てください…
公式のみどころから一応観られます。
ユベール・ロベールは写実的かつ退廃的な感じですね。


フェリックス・フランソワ・ジョルジュ・フィリベール・ジエム《ボスポラス海峡》19世紀前半、プーシキン美術館

ちょっとこれだけ時代が飛んでるのが気になりましたが、地続きの異国情緒を体感したことがないので、こういう絵は無条件で惹かれます。
そしてボスポラス海峡と聞くと反射的に新海誠のCMが脳内再生される。

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ここから第2章「自然への賛美」
真面目に歴史を追いかけるとこの辺りからしんどくなってくるので手短に行きます。

「フランス風景画」としては、

・18世紀後半から新古典主義/ロマン主義の台頭
・19世紀半ばからバルビゾン派(産業革命以前の自然に還る)

という辺りのセクションです。
基本さらっと観てしまいましたが、バルビゾン派が好きな人はコローもクールベも2作品ずつ来ているので楽しいと思います。

【余談】フランス以外の風景画の成立過程

こっちは余談なのでさらにざっくりいきます。

・17世紀オランダはプロテスタントの精神の反映により早い段階で様々なタイプの風景画家がいた

・18世紀北ヨーロッパのイタリアの旅行の流行を反映して、画家カナレットを中心に都市景観画が数多く描かれるようになる

ちょっと話はズレますが、個人的に今回のテーマである「旅するフランス風景画」の起源としてカナレットは結構重要人物かな?と思います。
ビュールレ・コレクションにも来てたので紹介しますね。


カナレット(アントーニオ・カナール)《サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂ヴェネツィア》1738-42年、ビュールレ・コレクション(参考作品)

北ヨーロッパにおけるイタリア旅行ブームのお土産物として都市景観画ブームが起こったそうです。
要するに絵葉書とかポストカードの類ですね。

カナレットに関してはもうひとつ。

↑この記事ではゴッホとモネに全振りしましたけど、カナレットからシニャックの流れも良かったんですよね。


ポール・シニャック《ジュデッカ琿河、ヴェネツィア、朝 (サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂) 》1905年、ビュールレ・コレクション(参考作品)

同じヴェネチアの風景でも160年で描き方が全然違う。
こういう比較は結構好きなので、同じ展覧会で観られると勉強になります。

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プーシキン美術館展に話を戻します。
オランダからの影響が強い作品も好きでしたね。
バルビゾン派コンスタン・トロワイヨン《牧草地の牛》を含めて2作品も牛の絵が来てるんですけど、どっちも牛が可愛くて和みます。
オランダにも牛を含めた動物画が得意なパウルス・ポッテルという画家がいたようです。

案の定また画像がないので一応、普段ブログに使う画像を探すのに使っているWeb Gallery of Artコンスタン・トロワイヨンで観てください。可愛さを観て欲しい。

印象派/ポスト印象派に囚われない展示が面白い

ここから第3章〜最後の第6章まで、ルノワール、モネ、セザンヌマティスゴーギャン、ルソー、そしてピカソの目玉作品がバランス良く配置されています。
単純に混雑回避のために散らしてるだけかもですが最後まで「フランスと旅」というテーマが貫かれているのを感じました。

目玉作品以外でこれは感想をしっかり書きたい、と思った作品は第3章「大都市パリの風景画」に多かったですね。
ゴッホも含め、割とピンポイントで1880-1910年くらいの絵が好きだなという自覚はありましたけど、多分時代が近代化していく中での、それぞれの画家の眼差しの違いに惹かれているのかもしれないなと今回の展覧会で思いました。


ルイジ・ロワール《パリ環状鉄道の煙(パリ郊外)》1885年、プーシキン美術館

これはサイズがかなり大きい作品で、煙の臨場感たっぷりで迫力があります。これは生で観て欲しい!
近代的な労働者(農民ではない)が描かれているところも時代を感じられてグッときますね。
あとは展覧会に来ていたちびっ子が絵の大きさと煙のリアルさに喜んでいて微笑ましかったです。土日の展覧会はこういうところでほっこりしますね。


エドゥアール・レオン=コルテス《夜のパリ》1910以前、プーシキン美術館

夜のパリ、ガス燈というテーマだけで興奮します…うっとりものです。フェチレベルで好きかもしれない。
こういう作品を見ていると、自然へ回帰していく作品はすでに人気なので、このセクションのようなパリの近代的な側面を描いている画家ももっと注目されて欲しいなーと思います。

そういう意味では三菱一号館美術館のレスタンプ・オリジナルコレクションは時代を写し取っていてかなり好きな部類ですし、企画展を通じて色々な文脈で観られるのは貴重なことだと思ってるんですけど、古典的な画材で近代的な物を描いているというところに何となく個人的なツボがあるんじゃないかと思います。

で、例によって長くなったので、目玉作品の中のモネ《白い睡蓮》とセザンヌ《サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め》はまたまとめて別記事で書くつもりです。

あとはルノワール《庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰》は、他の画家も含めたムーラン・ド・ラ・ギャレット比べをやれたらいいなと。


資料ならある。

参考文献

石鍋真澄千足伸行他『新西洋美術史』、西村書店、2010年

この本は概論の授業用の教科書だったのですが、よく考えたらこの教科書全然使わずに授業してたし、授業自体も何やってのかちっとも記憶にない…
この本自体の参考文献もなかなかの量なのですが、ちょいちょい気になる本もあるので元気な時に探しに行きたいですね。